こんにちは。いつもブログを読んでくださり、ありがとうございます。

先日、私がいつも撮影に入らせていただいているダンス教室の主催の先生ご夫妻と、3人でゆっくりとお食事をご一緒する機会がありました。

ご主人である先生が振付や構成を手がけられているのはもちろんのこと、奥様もまた、共に教室を引っ張り、熱心に生徒たちの指導にあたっている先生です。お二人とも、人生の長い時間を「舞台」という厳しい世界に捧げ、第一線で生きてこられた生粋のプロフェッショナル。美味しい食事とお酒をいただきながらの席だったのですが……もう、途中から箸を進めるのも忘れるくらい、お互いの舞台に対する想いがぶつかり合い、非常に熱く、そして深い語り合いの夜となりました。

今日は、その夜にお二人から聞かせていただいた素晴らしいお話と、私自身の写真に対する想いについて、少し長くなりますが書き留めておきたいと思います。

「技術」の前に、「人」としてどう在るべきか

お二人から交互に飛び出す言葉の中で、私が最も深く共鳴したのが、教室の根幹にある「理念」についてでした。

お二人は口を揃えてこう仰いました。 「私たちが教室で伝えていきたいのは、単なるダンスの技術だけではないんです。舞台に立つ人間として、その前に『人として大切なこと』を伝え、育てていくこと。それが私たちの使命だと思っています」

挨拶をしっかりすること。礼儀を重んじること。そして何より、周囲の人たちへの「感謝の気持ち」を忘れないこと。奥様の先生は、日々のレッスンの様子を振り返りながら、技術以前の心のあり方が、いかに舞台での表現そのものに直結するかを熱く語ってくれました。

華やかなステージは、決して踊り手一人で成立するものではありません。照明さん、音響さん、舞台監督さんといった裏方のスタッフがいて、初めて幕が上がります。そして、日々のお弁当作りから送迎、衣装の準備まで、文字通り身を粉にしてサポートしてくれているご家族の存在があります。

そうした「見えない支え」に対して、心からの感謝を持てない人間は、本当の意味で舞台で輝くことはできない。だからこそ、その人間としての土台を徹底的に教え込むのだと。

そして、お二人はさらに強い覚悟を持って、こう言葉を継ぎました。「だからこそ、私たちのこの理念に賛同できない方、生徒さんや保護者の方も含めてですが、そうした方には去っていただいて結構だと思っているんです」

この言葉を聞いた時、私は鳥肌が立つほど痺れました。教室を運営していく上で、生徒数を確保することはビジネスとして非常に重要です。それでもなお、ご自身の理念と哲学を最優先し、妥協を許さない。その確固たる信念に、私はカメラマンとして、そして一人の人間として、心の底から敬意を抱きました。

理念こそが、唯一無二の価値になる

今、世の中を見渡せば、本当に数え切れないほどのダンス教室やバレエ教室が存在します。極端な言い方をしてしまえば、「ただ踊りの振り付けや技術だけを教わりたい」のであれば、選択肢はいくらでも、どこにでもあるわけです。

でも、だからこそ「人として大切なこと」を一切の妥協なく真っ向から伝える教室の存在意義は、計り知れません。

しかも、先生はあの「劇団四季」のご出身です。日本の最高峰、圧倒的な実力と極限の厳しさが求められる舞台で、プロフェッショナリズムの神髄を叩き込まれてきた方が、その熱量と経験をそのままに、本気で人間教育に向き合っている。奥様もまた、その厳しさと愛のバランスを熟知し、生徒一人ひとりに寄り添いながらも決して基準を下げない指導を貫かれています。

「先生、それこそが他のどの教室にも真似できない、圧倒的な強みであり差別化ですよ!」 気づけば、私は身を乗り出してそう熱弁していました。

ただ技術を教えるだけの場所ではなく、舞台を通して人生を生き抜く力を育む場所。この理念をとことん突き詰めていけば、この教室は絶対に唯一無二の存在になる。お二人がこれから育て上げていく教室の未来が、そしてそこから巣立っていくダンサーたちの姿が、想像するだけで本当に楽しみで仕方がありません。

見えない細部にこそ神は宿る。私の「写真へのこだわり」

そんな熱を帯びたやり取りの中で、お二人から「菊池さんは、写真を撮り上げる上で一番大切にしていることは何ですか?」と質問をいただきました。先生たちの熱気にあてられたのか、私も自分の奥底にある「職人としてのこだわり」について、包み隠さずお話しさせてもらいました。

私が舞台写真を作り上げる上で、絶対に譲れないこと。 それは、「小さいことにこそ、極限までこだわる」ということです。

例えば、パッと見てすぐにわかるような「明るさ」や「鮮やかさ」「ピント」といった表面的な部分を綺麗に整えるのは、プロのカメラマンであれば誰でもやっている、いわば当たり前のことです。

でも、私が本当に心血を注いでいるのは、パッと見ではほとんど気づかれないような「細かな部分」「見えない部分」の調整です。 踊り手の方の指先のコンマ数ミリの角度をどう魅せるか。身体全体の表現に宿る躍動感。背景に落ちる影の濃淡。あるいは、その瞬間の「呼吸のタメ」が写真から伝わってくるか。

そういった、一つひとつは微細な要素の積み重ねが、最終的に一枚の写真になった時、「なんかこの写真、すごく心に響く」「他とは違う圧倒的な何かがある」という、お客様の深い感動や満足感へと繋がっていくのだと私は信じています。

スティーブ・ジョブズが残した有名な言葉に「細部にとことんこだわれ(God is in the details / 神は細部に宿る)」というものがありますが、私はこの考え方にものすごく共感しています。

見える部分を綺麗にするのは技術ですが、見えない細部まで徹底的に磨き上げるのは、撮り手の「執念」であり「愛」です。他との決定的な違いは、常にそうした細部にこそ生まれるのだと、お二人に熱く語らせていただきました。

「世界一の野望」を捨てて手に入れた、本当の目標

そして話は、私の過去の葛藤にも及びました。 実は私は、この仕事を「もうやめよう」と思ったことが何度もあります。撮り直しのきかない舞台のプレッシャーに押しつぶされそうになり、「自分には向いていないんじゃないか」と絶望した夜は数え切れません。

それでも、自分の中にずっと「根拠のない自信」のようなものがなぜかあって。不器用ながらも、そんな自分を信じて泥臭くシャッターを切り続けてきた結果が、今の私です。

昔の私は、密かに「絶対に世界一の舞台写真家になってやる!」という、ギラギラした野望を抱いていました(笑)。今振り返ると少し恥ずかしいですが、自分の承認欲求を満たすために、本気でそう思っていた時期があったんです。

でも、数え切れないほどの舞台を経験し、レンズ越しにたくさんの踊り手さんや先生方、ご家族の純粋な想いに触れていく中で、私のその考えは無くなりました。

今の私には、「世界一になる」といった抽象的で自己中心的な目標はまったくありません。 その代わり、「今、私に撮影を依頼してくださった目の前のお客さん一人ひとりが、本心から『宜将さんに頼んで本当に良かった』と言ってくださる写真を撮り切る」。ただそれだけに、私の全神経を集中させるという考えに変わりました。

世界中の誰かに評価されることよりも、今日この日、最高の笑顔と涙を見せてくれた目の前の「あなた」の宝物になる一枚を残したい。その想いに至った時、ようやく私は、本当の意味での「自分の写真」が撮れるようになった気がしています。そんな少し気恥ずかしい本音も、お二人は真剣な眼差しで受け止めてくれました。

舞台の力で地域を発展させ、未来を創る

夜も深まってきた頃、お二人がこれから先の「夢」や「ビジョン」について語ってくれました。

それは、ただ自分たちの教室を大きくしたいという枠に留まらない、非常にスケールの大きな話でした。ダンスや舞台という素晴らしい文化を通して「地域発展」に貢献していく活動。踊りを通した、社会で通用する人間作り。

そして何より私が感銘を受けたのが、「才能あるダンサーたちが、しっかりとダンスでお金を稼ぎ、生きていくことができる『仕組み作り』を構築したい」という強い想いでした。

舞台の世界の厳しさも、芸術だけで食べていくことの圧倒的な難しさも、誰よりも身をもって痛感しているお二人だからこそ出てくる、非常に現実的で、かつ深い愛情に溢れたビジョンです。ダンサーの地位を向上させ、夢を追う若者たちが真っ当に評価され、生活していける土壌を作りたいというその考えに、私は激しく共感しました。

「私にできることがあれば、いくらでも協力させてください。一緒に尽力させてください!」 気づけば、私はそう力強くお二人に伝えていました。

おわりに

今回、お二人とのお食事では、本当にたくさんの考えや、舞台への熱い想いを共有することができました。

何より一番嬉しかったのは、自分の仕事に対して一切の妥協を許さず、私と同じような熱量で、同じ方向を向いて本気で走っている「本物の仲間」がいると実感できたことです。この夜の熱い語り合いでいただいた膨大なエネルギーは、私のカメラマンとしての魂をさらに熱く燃え上がらせてくれました。

技術の前に、人としてどう在るか。 細部にまで宿る、プロフェッショナルとしての覚悟。 そして、未来の舞台芸術を支えるためのビジョン。

お二人からいただいた数々の言葉を胸に、私もまた次回の撮影からさらにギアを一段上げて、ファインダー越しに生徒さんたちの姿を全力で追いかけていきたいと思います。

最高に楽しくて、刺激的な夜でした。先生、奥様、本当にありがとうございました。 これからも、それぞれの持ち場で、お互いの理念をとことん突き詰めていきましょう!そして、素晴らしい未来を一緒に作っていけたら最高です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。